『内藤ルネ自伝 すべてを失くして―転落のあとに』

内藤ルネ自伝 すべてを失くして―転落のあとに
少女画の世界に最初に「かわいい」という概念を持ち込んだと言われるイラストレーター、内藤ルネ氏の自伝。

日本の少女たちが絶大に信仰する「可愛い」という概念。これを日本の少女文化にもたらした人。それが内藤ルネさんです。(中略)ディフォルメされた頭身。ファニーフェイスに挑発的な表情。ちょっぴりセクシーな可愛さ。これらのルーツをたどっていくと、内藤ルネさんがもたらした少女文化にたどりつきます。内藤ルネさんの師である中原淳一氏がそれまで作り上げていた「美しい」という概念を、圧倒的なパワーで塗り替えてしまった夢のキィワード「可愛い」は、現代日本文化の根底を流れる重要なキィワードにもなっています。(ファッションドール専門誌『Dollybird』より)

憧れの中原淳一に招かれて1952年冬に上京、神田神保町ひまわり社へ入社した氏は、次第にイラストレーターとして頭角を現していく。ペンネームは映画監督のルネ・クレマンからつけたもの。

ルネ描く少女たちは、周囲の度肝を抜いた。「まるで宇宙人のような」長い首にひょろ長い手足。お茶目な表情の目にぶ厚い唇。それまでだれも見たことのない、まったく新しいタイプの少女画の登場だった。「上品で美しい」から「元気でかわいい」へ。ルネはニッポンのかわいらしさの発信源となる。


この前読んだ『ピーコ伝』もそうだったけど、かなり赤裸々に性的嗜好についても書かれていて、飛行機の中で読んでいて結構ドキドキした。

幼少時代を天真爛漫に過ごしてきたが、その時のもやもやした感情をふり返ってみて、それなのかと気がついた時、とにかく腹立たしかった。染色体なのかなんなのか絶対許せなかった。コンチクショーと思った。天を呪った。そして“天刑”という文字が、その後私のなかに浮かんでは消えた。
人類にもともとあると聞いていたこの性に生まれてきた、そう気がついた時は死を考えた。しかし否応もなくこの性に生まれてきてしまったのだ。

ストレートを恋い慕い、くるわせてみたいというのは、こちらの世界ではだれもが抱いている永遠の願望です。周りに対しての、一種の手柄のような面もありますね。
ハッピー・エンドは絶対にないというのが、最初からわかっていての願いです。一時期あるいは盛り上がるかもしれないけれど、ハッピーな最終局面を迎えることはこちらがどんなに望んでも、あり得ない。最初から運命は決まっているんです。
だからこそ、たとえ一瞬でも、ストレートと心身通じ合う。それは永遠の願いであり、醍醐味です。それはそうですよ。

男同士はお尻を使うというでしょ。だけど現実には使う人と使わない人がいて、快感を感じる人とそうでない人がいるんです。
世間の多くはこちらの世界、すなわち「後ろ」だと思っているようですけれど、違うの。後ろを使う人は一部です。口だけという場合も多い。要するに個人差なのね。
好まれる男性像というのも、じつに十人十色です。ジャニーズみたいな美少年を好むのはむしろ少数派。禿げてなきゃだめだとか、太っててほしいとか、老人でなきゃだめとか、極めて千差万別。それだけに人間って面白いなあと、こちら側にいながら思います。


後年、築き上げた財産のほとんどを詐欺で奪われ、重い病気で入院生活を送った際にも、恋心が氏の生きがいだった…というのは、ピーコ氏と通じるところがあって興味深い。

あ、熱い痛みならありましたよ、ハートのね。ラブ! そう、入院中、担当のドクターが好きになっちゃったんです。それはそれはかわいい方で、お会いするたびドキドキして……もう、病気どころじゃなくなっちゃったんですよ。その方は、初めての坊やが生まれたところでした。
ありがたいですよ、好きな方がいるってことは。目が楽しんじゃう。快感ですね。入院の憂さなんて飛んでいっちゃいます。そうね、好きな相手がお医者さんだったから、もしかしたら治るのも早かったのかもしれない。

日々の生活においても、ルネからときめく想いが遠のくことは一日たりともない。目下の夢は、ルネの編集による「素敵な男の子写真集」の出版。最新最大のアイドルは、妻夫木聡だそうだ。いままでにまったくなかった、彼の素敵な写真集のアイデアを、今たくさんメモにしている。

珍しいもの、楽しいもの、不思議なもの、古いもの、見たことがないものを追い求めて生きてきました。
いまでも探している。なにか不思議で面白いものはないかと。どうしたらみなさまに、夢色ショックを差し上げられるかと、相も変らず鵜の目ルネの目です。

ちなみにルネ氏が挙げていたベストノベル20は以下のラインナップだった。

1 オスカー・ワイルドの童話『或る王女の誕生日』
2 ジャン・ジロドゥ『オンディーヌ』
3 アントン・チェーホフ『ワーニャ伯父さん』
4 シモーヌ・ド・ボーヴォワール『招かれた女』
5 アガサ・クリスティアクロイド殺人事件
6 アガサ・クリスティ『うぐいす荘』
7 レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ
8 アルジャーナン・ブラックウッド『邪悪な祈り』
9 ハンス・ハインツ・エーヴェルス『アルラウネと運転手』
10 ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』
11 ヘンリー・ジェイムズ『教え子』
12 O・ヘンリー『家具つきの貸間』
13 トルーマン・カポーティ『ミリアム』
14 サキ『モールヴェラと名づけられた人形の物語』
15 菊池寛『三浦右衛門の最後』
16 樋口一葉『別れ道』
17 徳富蘆花『寄生木』
18 澤地久枝『石川節子─愛の永遠を信じたく候』
19 萩原葉子『天上の花』
20 スコット・フィッツジェラルド『バーニス嬢の断髪異変』

どうでもいいけどこの本、裏表紙はルネ氏が長らく描いていた薔薇族の表紙の絵なのだけど、絵を見た次男が「あ、くまたん、かーいーね。」と言ってた。う、うん…。