『パチンコの経済学』

パチンコの経済学
私はパチンコやパチスロをほとんどやったことがなくて、機械そのものはもとより業界の仕組みやなんかにも全然疎いのだが、昨今都知事の発言で脚光を浴びている斯界について少し知識をつけておきたくなり、図書館でいくつか本を借りてきた。
これまで興味がなかったから意外に思ったのだけれど、歴史から業界内部の暴露まで、割とパチンコ関連の本(もちろん攻略本を除く)というのは冊数があるのだ。本書はその概要をある程度データに基づいて把握できそうな感じだったので、ひとまず手にしたもの。


レジャー白書」なんてものをのぞいたことがある方ならご存知だと思うが、日本のレジャー市場すべて(つまりスポーツ、観光、ネットなんかも含め)の約2割から3割くらいを占めているのが、パチンコ・パチスロ市場である。
パチンコ人口はピーク時の80年代末には3,000万人以上と言われた時期もあり、産業として考えてみても、この本の出た2007年の直近データで全国に約1万5,000店のパチンコ店があり(同時期に食品スーパーは全国に1万8,500店)、従業員は約30万人、全国にパチンコ機とパチスロ機をあわせて490万台が存在。パチンコホール企業は個人営業を含め7,000社、遊技機メーカーはパチンコパチスロ合わせて約50社という巨大ビジネスなのだ。
筆者によれば業界の売上は3つのブレイクスルーポイントがあり、1980年に出現したフィーバー機により約5兆円、1992年のCR機の導入を契機に約15兆円、そして1996年パチスロ人気で約30兆円というピークを迎えている。
もちろんこれらの数字は現在では逓減していると思われるが、いずれにせよ、大した規模である。


ひとつ興味深い記述があった。
本書で筆者は「日本のギャンブル市場の損失額」というものを試算しているのだが、これはパチンコ・パチスロはもちろんや公営ギャンブルや宝くじの総売上からそれぞれの控除率(パチンコで16〜12%、競馬競輪競艇オートで25%前後、宝くじで50%前後)を引いた額は、2005年でなんと約5兆3600億円にも及ぶ。この数字は、平成に入ってから常にGDPの1%を超えているという。なんとなくラスベガスのイメージの強いアメリカや、資本主義というギャンブルを発展させた英国においても、ここまでの割合にはならないらしく、「こんな国は世界でも日本くらいだろう」と筆者は言う。
もちろん、上記算式には「客が勝った額」や「勝った額をさらに賭けた額」という数字は考慮されていないため、5兆円余がそのまま「負けた額」とは言えないのだが。それにしても。


本書の後半、筆者は「風営法」に縛られたパチンコ業界の現状に限界を感じており、一部国会議員の間で検討が盛んに行われていた「日本版カジノ導入」の機運を踏まえ、カジノゲームもパチンコ・パチスロも包括する新たなギャンブル法を制定し、正々堂々と営業を行うことが重要だと分析している。この辺の考察は、個人的にはやや飛躍があるように思えたが、自身パチンコホール会社の重役も務めていたという筆者のような立場の人には、法律の縛りというのがかなり重い問題なのだろうことは推察できた。


あと、この本を読んで名古屋がパチンコの先進地域である理由が初めて分かった。
どうやら名古屋に拠点を持っていた正村竹一という人が、「正村ゲージ」と呼ばれる現在のパチンコ盤の原型を開発したのがきっかけらしく、戦後間もない頃、パチンコ機製造に欠かせないベニヤ板(堅いブナ)、玉(ボールベアリング)、ガラス板(温室栽培用のガラス)がそれぞれ名古屋周辺で手に入ったためらしい。
この正村氏については改めて別に評伝本を読んだので、いずれ紹介したい。