『新・平家物語(十一)』

新・平家物語(十一) (吉川英治歴史時代文庫)
これ読み終わってあと5冊。先が見えてきた。


都を追われた平家もいったんは息を吹き返したかに思えたが、清盛一周忌の直後に一ノ谷の合戦で壊滅的な打撃を受けてしまう。義経鵯越の逆落としで有名なこの合戦で、敦盛、忠度ら平軍の幾多の将が哀れな末路を遂げ、大将宗盛らはまだ幼い安徳天皇と三種の神器を奉じて瀬戸内海を逃げ落ちていく。
合戦のさなか、自ら囚われの身となった清盛の息子・平重衡は、東大寺の大仏を焼き払った仏敵として僧たちの怒りの的となりつつも、鎌倉へ下り奇妙な虜囚生活を送る。
一方で源氏内にも怪しい雲がそろそろ垂れ込める。頼朝が目付け役として派遣した梶原景時義経との間で、避けがたい確執が表面化し、頼朝の疑心暗鬼、またそれに対する必要以上の義経の気遣いが、歯車を大きく破滅へ回し始める。
鎌倉で隠然と根を張るその頼朝とて、同じ破滅の歯車に乗っている一人でもある。鎌倉に新しい武士の府を創建しようとする苦労は、半ば報われ、半ば裏切られる運命にある。
妻の父である北条時政についての頼朝の想いは、こんな感じだ。

 恋人の父親だし、また地方の有力者でもあり、旗揚げの味方に持つには、絶好な人物と、頼朝も初めは重宝者とわれから眼をつけて利用した男であった。が、いつのまにかこの必要物は、必要以上な存在にのし上がってきた。何かにつけ、政子に頭が上がらないというのも、親の時政がうしろにいるからであるように、いまいましく感じられるばあいが、頼朝には、ときどきある。
 ──といって、今となっては、その勢力を抜くこともできなかった。家庭的にもできないし、創府五年の組織からも、到底、それはむずかしい。なぜならば、幕府創建の当初すでに、その梁や土台に組み入れられてしまったものだ。しいて除けば、一挙に、鎌倉の府の崩壊はまぬがれえまい。

このいまいましさが、後に3代で源氏将軍が途絶え北条氏による執権政治にとって替わられる…という形で顕現するのだから、実に皮肉なものだ。
こうしてみると「平家物語」は、常に何かが何かにとって替わられる話とも言える。