『火の玉を見たか』

火の玉を見たか (ちくまプリマーブックス)

火の玉を見たか (ちくまプリマーブックス)

私はオカルト好きの父親の影響を受けて、幼少のみぎりから心霊現象やUFO、UMAの類に触れる機会が多かった。しかもまた、80年代から90年代初頭にかけては一種の心霊ブームもあったので、テレビでもそうした特番が頻繁に放映されていた。
本書の著者である大槻義彦教授は、今でこそ年末のTVタックルでたま出版の韮澤社長をはじめオカルト擁護派をこき下ろす偏屈なおじさんというキャラだが、80年代当時にテレビ界に登場したときは、火の玉からミステリーサークル、ポルターガイストキャトルミューティレーションまで、ありとあらゆる心霊現象を「自然界に発生するプラズマ」理論で快刀乱麻に説明してのける、気鋭の物理学者という位置付けだった*1
本書は1991年に出版された若い読者向けの本で、大槻教授が(それが何故なのかは書かれていないが)火の玉に興味を持ち始めた80年代後半から、日本全国、そして世界各国の火の玉研究者に呼びかけ「火の玉国際シンポジウム」を開催するまでの経緯や苦労が書かれている。
その傍ら世界中の火の玉頻出地帯を調査して回った結果、「火の玉はプラズマにより引き起こされる」という確信を持つようになり、最初は手製の装置を創意工夫しながら、最終的にはつくば学園都市に火の玉研究所を設けるに至る。そして1990年、ついにプラズマによる火の玉再現に成功する。これらのことが、自分のことだから筆が走るのは仕方がないとはいえ、かなりエキサイティングに回想されていて面白かった。
それにしても、プラズマで同じような現象を再現できたからといって、イコールそれが全ての火の玉の説明になるとは限らない、あくまで「説明範囲が広い有力な説ができた」程度のことではないかと思うのだが、本書の末尾で大槻教授は、火の玉はおろかいわゆるUFO、幽霊、ミステリーサークル、キャトルミューティレーション、人体発火などは「全てプラズマで説明できる」と豪語している。この時期は一種の知的興奮状態にあったのかもしれないにせよ、この辺の大槻教授の断言癖の危うさは、後にいろいろと証明されるところである*2


本書を読んで感じたのは、同じ専門分野で研究する学者同士のつながりというか、互いへのリスペクトというのは、我々門外漢にはちょっと理解できないほど濃いところがあるのだなあ…ということ。
大槻教授も「火の玉」だけを頼りに、精力的に世界各国の科学者に飛び込みで協力を依頼し、ある時は直接会いに行って時間を忘れてディスカッションを行ったりしている。また相手の方もそれに熱心に応えてくれるのだ。
学者の世界は狭いというけれど、この連帯感、さらにはすぐにシンポジウムにまでつなげる大槻教授の行動力には、本筋とは関係なく感心させられた。あとまあそれを許す大学(というか大部分はスポンサー企業?)側の資金力というのもあるのだろうが…。

*1:私は当時から、何でもかんでもプラズマ一つで説明してしまうその姿勢には、強引さを感じていた。要するに、プラズマで説明できることもあるだろうけど、そうでないものも多いはずだ、という思っていた。ただ、大槻教授自身、半ば確信的にそういう姿勢を取っているようにも見えたのも事実。何せ説明する相手が、道理の通らない無茶苦茶な人たちばかりだったので…。

*2:たとえばミステリーサークルは長らく超自然現象と考えられていたが、1991年に「あれは自分たちがやったいたずらだった」と名乗り出た人物が現れて以来、人為的なものであるというのが定説となっている。そして大槻教授も現在ではミステリーサークル=プラズマ起因説を取り下げているらしい。この辺、ミステリーサークルの歴史について簡潔にまとめたビデオがつい最近アメリカのYahoo!ニュースにあったので、興味のある方はこちらを参照のこと