『中国の大盗賊・完全版』

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)
私の大好きな高島敏男さんの評論。この方の著書を読むと毎回眼からうろこが落ちる思いなのだが、今回は古代から現代までの中国王朝交代史を「盗賊」という観点から説かれていて、なかなか興味深かった。
中国の王朝交代というと「易姓革命」や「禅譲」などの単語が思い浮かぶが、それらは当然、前の王朝を乗っ取った側からの言い訳、きれいごとにすぎない。高島氏はとくに漢を興した劉邦、乞食坊主から明の太宗となった朱元璋、その明を倒したものの清に敗れた李自成、清末に太平天国の乱を起こした洪秀全、そして「最後の盗賊皇帝」として毛沢東をフィーチャーし、中国における支配・被支配の関係を整理し、後世共産党によって書き換えられた歴史の裏側を炙り出していくのだが、これが非常に明快にして面白いのだ。
ちなみに「あとがき」によると、毛沢東を盗賊と決め付けた部分がさすがに執筆当初に問題となったらしく、その部分だけ削除されて1989年に本書の最初の版が出版された。ところがその辺の事情を聞きつけた読者から、ボツとなった原稿を読みたいという申し入れが相次いだそうで、時代が変わって2004年にその部分を再録したものを「完全版」と銘打って世に出したのが本書というわけ。