『さらば、愛しき鉤爪』

さらば、愛しき鉤爪 (ヴィレッジブックス)
何年か前に「このミステリーがすごい!」の第何位だかに選ばれた作品だそうで*1、某書評家さんがベタ褒めしていたのを聞いて購入。そのまま数年間本棚で寝ていたのだが、ここにきてようやく読了。


恐竜が実は現代も生き延びていて、人間の皮をかぶって一般社会に溶け込んで暮らしている…という設定の話。歴史上の人物や一部現代の有名人なども、「あれは実は恐竜だ」などと明かされるのが面白い。また、映画「ジュラシック・パーク」を評して「あれは恐竜たちがこぞって見に行ったから大ヒットした」といった記述があったのも笑えた。
ただ、恐竜が人間の皮をかぶって人間として暮らす…という部分がどうしてもリアリティを持って想像できなかったため、どうにも感情移入がしづらい話だった。病院には恐竜の医師や看護士が多いため怪我をしても人間にバレないとか、警察や消防にも恐竜がいて秘密の番号に通報すれば事件に巻き込まれた場合も大丈夫とか、いろいろ苦しい言い訳は書いてあったのだが…。
SFとしては細部がずさんだし、かといってハードボイルド小説としてはおちゃらけ過ぎている。探偵小説にしては謎解きが終盤の主人公による独白で全て語られるというのが安直だし、ノワール小説としても「赤毛の美人と恋に落ちる」なんていかにも型にはまり過ぎだ。
結局のところ本作はそれら全てのパロディであり、そこに「人間vs人間として暮らす恐竜」という関係性のひねりを加えたところこそが肝なのだ。それが面白いと思えれば面白いし、つまらないと思えばつまらない。そんな作品だった。
私はとにかく「尻尾を人間の扮装に押し込む」というのが想像できなくて、そこでつまづいてしまったクチ。

*1:はてなキーワードによると、2002年の海外編第7位。