『ワーキングプア解決への道』

ワーキングプア 解決への道
昨年末に放送されたNHKスペシャル「ワーキングプア3〜解決への道〜」の取材版がまとめた、問題解決への糸口をまとめたノンフィクション。基本的には番組で紹介したことを再録しつつ、放送できなかったエピソードもいくつか盛り込まれている。
最初にワーキングプア問題を世に知らしめた「ワーキングプア〜働いても豊かになれない〜」、大きな反響を受けてNHKに寄せられたメールやFAXを元に構成された「ワーキングプア2〜努力すれば抜け出せますか〜」(いずれも2006年に放送)の2編は、厳しい現状を紹介するにとどまるものだった。それに対し「〜3」は、自由主義市場経済のもとで同じ問題を抱えている他国の現状と対応策を紹介することで、日本のワーキングプア問題の解決の糸口を探ろうという趣旨の内容だった。

  • 1997年、IMFによる緊急融資を受けた韓国では早急な経済の建て直しを迫られた結果、日本よりもはるかに先に「労働市場の開放」を進め、現在では労働者の実に50%が非正規雇用なのだという。学歴もコネもない者は狭き門となった就職試験から落とされ、就職できた者や現在会社にいる者も容赦ないリストラの洗礼を受ける。自殺も起きる激しい抗議行動が繰り返された後、政府は最低賃金の保障やある一定期間雇用を続けた者を正規雇用とすることなどを法令化するが、実態として問題の解決には至っていないそうだ。
  • 市場経済至上主義のアメリカは、ワーキングプアの問題でも「先進国」だった。企業がスリム化のために海外(オフショア)の安価な労働力を求めた結果、国内の労働市場が空洞化し、多くの労働者が非正規雇用の低賃金労働を余儀なくされた。小さな政府を標榜し国民皆保険制度のないアメリカで、それは最低限の生活の保障すらなくなってしまうことを意味する。そこで政府に頼らず州単位での取り組みが進められており、グローバル化の影響を受けない企業の誘致や、そこで必要とされる人材の育成に力が注がれているそうだ。もちろん、研修中の最低賃金は保障されているのだという。
  • 経済の低迷を「イギリス病」と揶揄されて久しい英国では、大英帝国の時代以来何度も浮沈を繰り返しながらも、すでに「貧困の連鎖」が何世代にも渡り続いている。いったん低所得者となってしまうと、その子供に満足な教育をさせることができず、子の世代も低賃金労働しかできなくなってしまうのだ。これを解決すべく、イギリスでは「シェアスタート」と呼ばれる育児補助を行ったり、新生児に対し一律に振り込まれる成人するまで引き落とすことのできない預金「チャイルドトラストファンド」(うまくいけば成人時には100万円近くになる)を設立したり、未成年をデータベース化して自治体や政府から積極的に教育・就職訓練を働きかけるプログラムが作られたりしているのだそうだ。

以上の3カ国の現状や取り組みを見ていると、日本の問題点があぶりだされてくる。

  • ワーキングプアとなってしまった人々は社会や地域から疎外されてしまっている。ボランティアなどの活動に参加させ社会の中に組み込むことで、まずは人間の尊厳を回復させるべき。
  • 貧困からの脱出につながる活動にもっと補助金を出すべき。介護や福祉などグローバル化にさらされにくく社会に必要とされる産業を重点的に、そこで必要とされる技能を身につけさせる施設・機会を増やし、訓練中は最低賃金程度の生活保障を行う。

働くということは、単に収入を得る手段ではなく、まさに人間の尊厳に深く関わることなのだ。ワーキングプアというのはその尊厳が損なわれることなのだ。