『アメリカとアメリカ人』

アメリカとアメリカ人―文明論的エッセイ (平凡社ライブラリー)
アメリカ大統領選挙関連のニュースが連日耳に入ってくるが、それにちなんで、図書館で見つけたこの本を読んでみた。『怒りの葡萄』のジョン・スタインベックが1968年に死去する直前に著した、「アメリカ人によるアメリカ論」を目指したエッセイ。
スタインベックは1960年代までのアメリカの歴史を振り返りつつ、そこに横たわる様々な病理を読み解いていく。だがそれらを乗り越えて「アメリカ」という国が求心力を持ち続けていられる根底にあるのは、「多様の統一」への情熱だとする。

 われわれの国土には、あらゆる種類の地質と気候があり、われわれ国民もあらゆる種類の民族、人種から成りたっている。しかも、この国土は一つの国であり、人びとはみなアメリカ人である。モットーというものは、とかく願いごとや夢を盛りこむ。ところが、アメリカの「多様の統一」(E Pluribus Unum)*1というモットーは事実である。不思議な、信じられないようなことだが真実だ。

もちろんこの「多様の統一」は最初から実現されていたわけではない。

 ピルグリム・ファーザーズはカトリック教徒をいじめ、両方ともユダヤ人をやっつけた。つぎにアイルランド人がねらわれ、続いてドイツ人、ポーランド人、スロバキア人、イタリア人、インド人、中国人、日本人、フィリピン人、メキシコ人が順番にしごかれた。…(中略)…このように新参者を残酷に扱ったからこそ、種族的、民族的なよそ者が急速に“アメリカ人”に同化したのではないかとさえ思われる。


本書を読んで知ったこと・その1。まさに現在アメリカで進行中でもある、正副大統領候補を決める政党の指名大会について。

 党大会の作業はきわめて短時間で終わらせることができるはずなのに、実際にはそうではない。夜のパーティやら祝賀やら、酒を飲む大がかりな会やら、アメリカ人が家を離れたときいつもやるあらゆるハメはずしをやり、大会は四、五日続く。
 大会がなぜこんなに続くかははっきりしているが、いまでは理由はなくなっている。第一回の党大開が開かれたころは、ほとんどの代議員は開催地に行くためには何日間、何週間も、馬に乗っていかねばならなかった。こんなつらい旅をしてきた代議員たちにとって、投票するだけでまた馬にまたがり、家に帰るのでは満足できない。何らかの楽しみがほしかった。いまでは、飛行機で到着しているのに、相変らず、楽しみを求めているのである。


本書を読んで知ったこと・その2。南北戦争(American civil war)について。

 十九世紀に北部諸州が奴隷制度をしめ出したのも、親切さとか、道徳心とか、心やさしい感情のせいではなかった。それは、経済のせいであった。
 …(中略)…ニューイングランドの貧しく、石だらけの小さな農場では、奴隷を使いきれなかった。自分が必要とせず、楽しむことも、もうけることもできない悪にたいしては断固として反対しやすいものだ。
 …(中略)…一方、南部では多くの奴隷所有者が奴隷制度の価値に疑問を持ちはじめ、かなりの数の知的な地主たちが売るか、解放するかして奴隷を手ばなしはじめていた。そのとき奴隷制度を認めない北部の力が南部をたたいた。奴隷所有者はみな邪悪で、野蛮な人間だと。ところが、彼らはそうではなかったし、そうでないことを自分で知っていた。そこで南部の人間は、自分を守るために奴隷制度を擁護しなければならなくなった。

南北戦争が、奴隷解放を焦点とするものではなく経済的な理由で引き起こされた…というのは、ひょっとして常識だった? 自分の無知に恥じ入る思い。


あと、アメリカ人が「ホーム(home)」というものに持っている感慨を書いた部分に、こんな記述があった。

 外国の観察者が最もとまどう特徴の一つは、アメリカ人が抱いている強くて消えることのない夢である。調べてみると、この夢は、アメリカ生活の現実とほとんど関係がないのだ。家(ホーム)にたいする夢と渇きを考えるとよい。ホームという言葉だけでアメリカ人のほとんど全員が涙を流すだろう。
 建築業者も住宅分譲業者も決して家屋を建てているのではない。ホームをつくっているのだ。…(中略)このドリーム・ホームは恒久的な居場所で、借家でなく、持ち家である。…(中略)こうしたホームは毎年何千戸となく建てられる。家が建ち、団地になり、広告され、売られていく。しかもアメリカの家族が一ヵ所に五年以上いることはめったにない。家と建具は分割払いで買っていて、金利は高い。父親のかせぎはたいてい実力以上に想定され、そのため二、三年後には借金を払うのに追いつくことができない。

…これってどこのサブプライム問題? という感じだが、昔からアメリカ人のマイホーム信仰って激しかったんだな。

*1:「エ・プルリブス・ウヌム」=アメリカは多様なもの(プルリブス)から成り立つが一つの統一体(ウヌム)であるというこの言葉は、アメリカ独立の頃から採用された国のモットーで、いまでも合衆国のすべての硬貨に刻まれている。(「解説」より)