「ラスト、コーション」

太平洋戦争中、日本占領下の上海。
親日政権に反感を持つ大学生のクァン(ワン・リーホン)らは、仲間の一人チアチー(タン・ウェイ)を金持ち夫人に仕立て上げ、政府の要職にあるイー(トニー・レオン)に近付ける。
それは暗殺を狙ってのスパイ行為のはずだったが、他人を信じられない男イーが次第に弱さを見せてくるのを前に、チアチーもやがてイーに心を通わせていく…

何の救いもない、間違っても見終わった後にカタルシスなど得られようはずもない映画なのだが、約3時間の上映時間がとても短く感じられた。堪能。
素人である学生たちが演技をして特務機関の長に罠を仕掛ける、その姿はあまりにも幼稚で稚拙で、滑稽ですらある(一本気な青い思想学生をワン・リーホンが好演)。
その「青臭い夢想」が「引き返せないシリアス」に変わっていくところ、チアチーがイーに誘われムードたっぷりのレストランで会食をした場面。ここは2人がお互いの心を探りながら恋に落ちるきっかけとなる、作中最も緊迫感溢れる場面なのだが、同時に作中最もエロティックに感じられた場面だった。話題の過激な濡れ場をはるかに通り越して。
チアチーがテーブルに置いたワイングラスの縁に、赤く残った口紅。それを素っ気なく、しかし執拗に写すカメラ。トニー・レオンのエロい含み笑い。タン・ウェイの複雑な表情。思わずゾクッとする場面だった。
また話題の過激なセックスシーンにしても、絡み合う体位で2人の関係性の変化を描いていて見事だった。最初は後ろから強引に犯したり無理にチアチーの体を折り曲げたりして、決して顔と顔を寄せようとしなかったイーだが、最後にはぴったりと密着し完全に心を許している。イーは本当にチアチーを愛していた、ということがこれで分かる。


どうでもいいが私の人生の最終目標は仙人になることで、さらに仙人になる前にトニー・レオン(みたいな優男)になりたい。それくらい(?)トニー・レオンが好きだ。
最初劇中にトニー・レオンが出てきたとき、「うわ、老けたな〜」と思ったのだが(映画撮影時点で45歳)、それももしかして役作りだったのかも。権力を手にし豪華な家で暮らしながら、特務機関の長として毎日行う尋問、処刑の中で消耗しきった姿。


そのトニー・レオンを相手に回し、一歩も引けをとらない見事な演技を見せたタン・ウェイさん。約1万人の中からオーディションで選ばれた彼女なのだが、実は本作がスクリーン・デビュー作らしい(テレビドラマには主演していたことがある)。
映画を見ている間ずっと、とくに化粧を落としたときの彼女の顔が、浅田真央に見えて仕方なかった。あと菊池麻衣子とか。

「…この映画を観るとき、ひとりの女の子が自分の心に従い、最も難しい決断をし、自分を変化させていく姿を発見することでしょう。純粋さから始まり、人生で経験するほぼすべてのことを経験して、自分が何者かを悟るのです。私はワン・チアチーを羨ましく思います。彼女は大胆で、後悔を知りません。彼女のように生きたいと思います。」
(パンフレットにあったタン・ウェイへのインタビューより)

映画「ラスト、コーション」オリジナル・サウンドトラック

映画「ラスト、コーション」オリジナル・サウンドトラック