『ブコウスキーの酔いどれ紀行』

ブコウスキーの酔いどれ紀行 (河出文庫)
3歳でアメリカに移住したチャールズ・ブコウスキーが、58歳のときに生まれ故郷のドイツとフランスを訪問したときの模様をつづったエッセイ。友人でフォトグラファーのマイケル・モンフォートが同行しており、同じく旅を共にしたブコウスキーのステディ(後の妻)リンダ・リーとの心温まるスナップショットを撮影、文章とともに収録している。
彼の多くの小説やエッセイの主人公「ヘンリー・チナスキー」なる人物は、ほとんど自身の分身であり作中の出来事もほとんどが現実に身の回りに起きたことに取材しているのだが、ブコウスキーブコウスキー自身として物事を書いたり語ったりすることは非常に少ないそうだ。本作はその数少ない一例。
ブコウスキー独特の醒めたユーモアはいつもどおりに連発しつつ、思った以上に恋人や親族、友人たちに向ける眼差しが優しく、苦労人のこの人の心根をうかがわせる。

 素敵な目をした青年たちは、わたしたちと一緒にハイデルベルグの城に出かけた。行く途中、わたしの著書がほとんど揃っている書店に連れていかれた。しかしその場に足を運んで、自分の本を見つめてみると、うれしいというよりも気恥しい気持ちのほうが先に立った。そんなことをしたいがために書いたわけではない。もちろん工場勤めから抜け出せてよかったが、そういうことは一人で、とりわけ朝ひどい気分で目が覚めた時などに、ベッドの中でひっそりと祝うものだ。