「死刑台のエレベーター」

死刑台のエレベーター [DVD]
1957年のフランス映画。監督はこれがデビュー作だったルイ・マル(当時25歳)。主演はモーリス・ロネジャンヌ・モロー。音楽はマイルス・デイビス

第2次大戦で落下傘部隊の英雄だったジュリアン(ロネ)は、現在勤めている会社でも社長から懐刀と見込まれている。しかし彼は、社長夫人のフロランス(モロー)と不倫関係にあった。
ジュリアンは社長を自殺に見せかけて殺すが、その証拠隠滅のために戻った自社ビルのエレベーター内に閉じ込められてしまう。待ち合わせの場所に現れないジュリアンの姿を求めて、深夜のパリの街をさまようフロランス。
一方、路上に放置されたジュリアンの車を、若いカップルが深い考えもなしに盗難し、郊外へ逃亡する。その晩泊まったモーテルで、ドイツ人の夫婦を殺害してしまったカップルは、パリに舞い戻って車と凶器の拳銃をうち捨て、服毒自殺を図る。
見つかったドイツ人夫婦の遺体と車、拳銃によって、エレベーター内に閉じ込められたままのジュリアンは、モーテルでの殺人犯として指名手配されてしまう…。

1時間半ほどの短いドラマで、入り組んだストーリーを平易にかつ情感たっぷりに描いているルイ・マルの演出力は見事。最後までぐいぐい引きつけられた。
それにしても、マイルスの気だるいトランペットをかぶせて映し出されるジャンヌ・モローの、なんと美しいことか。街をさまよい歩くシーンなどは、ただ単に彼女が歩いているだけで、ともすると単調になってしまうような場面なのだが、見ているだけでうっとりとさせられてしまう。


死刑台のエレベーター[完全版]
この映画のサウンドトラック(文字通りの映画音楽すべて)を担当しているのは、当時31歳だったマイルス・デイビス。映画にロマンティックな雰囲気が付加されて完成度が増したのは、文句なしに彼のトランペットのお陰と言えるだろう。
マイルス・デイビス自叙伝1』の中で、この時の様子をこんなふうに振り返っている。

 それからオレはパリに飛んで、ゲスト・ソロイストとして二、三週間滞在した。この時にジュリエット・グレコを通じて、ルイ・マルというフランス人の映画監督に会った。ずっとオレのファンで、彼の新しい映画「死刑台のエレベーター」の音楽をやってほしいと頼まれた。映画の音楽は初めてだったから、ものすごく勉強になった。ラッシュ・フィルムを見ながら、即興で作曲するアイデアを得たからだ。殺人がテーマのサスペンス映画だったせいか、すごく古くて暗い、憂鬱な感じのする建物で演奏した。これなら音楽に雰囲気を与えてくれると思ったが、確かにそれは効果的だった。誰もが、その映画音楽を気に入ってくれた。

ジョン・コルトレーンキャノンボール・アダレイらとともにモード奏法を確立する、その前年の出来事。