『ガリヴァ旅行記』

ガリヴァ旅行記 (新潮文庫)
以前、『滑稽糞尿譚 ウィタ・フンニョアリス(asin:4167312042)』というエッセイ・アンソロジーを読んだ時*1に、こんなことを書いた。

作家で仏文学者の山田稔氏が書いている「スウィフト考」という一編では、「ガリバー旅行記」で有名なスウィフトの糞尿嗜好について、またスウィフトを好んで論じた夏目漱石について、それぞれに共通する厭世的な側面に触れながら考察をしており、なかなか興味深かった。これを機に「ガリバー旅行記」を読んでみようか。

…ということで、上の文を書いてからなんだかんだで2年経ってしまったが、読んでみることにした。


ご存知のようにガリバー旅行記(この表記のほうが馴染み深い)は、4部構成になっている。世に広く知られている「リリパット(小人国)」の訪問が第一部で、以下「ブロブディンナグ(大人国)渡航記」、「ラピュタ、バルニバービ、グラブダドリッブ、ラグナグおよび日本渡航記」、「フウイヌム国渡航記」と続いている。…そう、ガリバーは日本にもやってきているのだ。
四部構成で長いので、一部づつ感想を書いていくことにする。まずは「リリパット(小人国)渡航記」。


航海に出たガリバー氏が嵐に遭い、船が難破して1人打ち上げられたのがリリパット国の海岸で、目が覚めると「身の丈6インチとはない」小人たちによって、無数のヒモで砂浜に結び付けられていた…というこの一章は、おそらく誰でも子供の頃に聞いたことがあると思う。
ガリバーはその後、この国の皇帝にいたく気に入られ、毎日「リリパット人1,728人扶持の食料」を支給してもらい、その代わりに賦役を手伝ったり、敵国ブレフスキュ(この国も当然小人国)から軍船を一隻残らず奪ってきたりしてみせるわけ。
このリリパットとブレフスキュという2つの国は、「卵の殻を大きいほうから割るか小さいほうから割るか」で意見が分かれ、長年いがみ合っている。さらにリリパットの宮廷内でも「靴のかかとの高い」トラメクサン党と「かかとの低い」スラメクサン党の2大派閥が争っている。
この対立はそれぞれ、この物語が書かれた18世紀初頭のヨーロッパにおける、プロテスタント=英国とカトリック=フランスの対立、英国内のホイッグ党トーリー党の対立を、作者のスウィフトが揶揄したものだと言われているそうだ。
ようはそうした現実世界のチマチマした争いを、ガリバー(=読者)から見た小人のケンカになぞらえているわけだ。まさに「巨視的」。


結局ガリバーは、リリパットの皇宮で起きた火事を、自分の小便で消したのがもとで宮廷から疎まれるようになり、あわや失明の刑にされるところを、たまたま流れ着いてきた人間サイズのボートに乗って故国へ戻ることで難を逃れるのでした。めでたしめでたし(?)。