『試みの地平線 伝説復活編』

試みの地平線 伝説復活編 (講談社文庫)
先日北海道に行ってきたとき、新千歳空港内の書店で発見し、即購入。
11月17日の日記でも書いたが、私はある時期この悩み相談を、毎号毎号立ち読みしていた。なので、確かに当時読んだことがある相談が再録されているのを読んで、非常に懐かしい気持ちになった。
と同時に、当時は「ムチャクチャやな」と思ってゲラゲラ笑いながら読み、挙句の果てに、より面白い珍回答を引き出せるような架空の悩み相談の手紙を友人たちと競作したりしていた*1このコーナーも、いま読むと北方謙三氏の回答の真剣さにほだされてしまう。

友よ君は
 小僧ども、よく聞け。
 俺はいい男である。少なくとも、そう言う他人が多い。年齢相応の風格も出てきた。金もある。バブルで儲けたわけではなく、精魂をこめて小説を書いて稼いだ、誇りを持てる金だ。したがって、女にももてる。日本に数台という車を持っているし、別荘も持っている。柔道は黒帯だし、FBIの射撃認定は中級だし、腕相撲では四十四年間に二人に負けただけだ。二十代のころは、命がけの喧嘩を数回やった。
 そういう俺に、おまえら、勝てるのか?
 俺の回答が傲慢だとか一方的すぎるとか文句が多いが、おまえらは黙って俺の言うことを聞いてろ。文句を言うのは、二十年早い。
 おまえらには、俺にないものがひとつある。若さだ。それを生かそうとしないおまえらを見ていると、なんともくやしくて、俺は怒鳴りたくなってしまうのだ。若さは、愚かさと同義だ。しかし、純粋なのだ。一途なのだ。俺が自分の全財産をはたいても買えないそれを、おまえらは持っている。
 わかるか、俺の言っていることが。生きて、生ききって、ズタズタになり、どうにもならなくなってから、悩め。それまでは鼻の穴をふくらませて突っ走れ。

「女にもてる」はまだいいとして、「柔道は黒帯」とか「FBIの射撃認定は中級」だとか、「腕相撲が強い」とか…言わずもがなの自分をさらけ出すのが、この悩み相談の特徴だと思った。
それは、中高生の頃の私には氏の自慢にしか思えなくて、「またオッサン言ってるよ」なんて読んでいたのだが、いま読むと、そこまで真剣に付き合う筋合いのない「小僧ども」に、本気で付き合ってくれた証なのだと思う。
そうでもなければ、誌上で「正直に告白すると俺も仮性包茎気味なのだよ」とか「俺の肩には毛が生えている」とか、そんなことを正直に言わなくてもいいのだから。
ま、言い過ぎのきらいはあるけど。

*1:結局出さなかったけど