『イノセントワールド』

イノセントワールド
書店で平積みになってると、装丁がかわいくて*1ついつい目に止まってしまう、一連の桜井亜美さんの本。いまこのエントリで表示されている書影は単行本版のものだが、文庫版のほうがかわいい。
なんか「いかにも!」という感じだからこれまで手には取らなかったが、ブクオフ100円コーナーで、この処女作を購入。


しかしこの本、てっきり女子高生が書いたものかと思ってたら、桜井亜美さんって、宮台真司氏の元パートナーだったジャーナリスト、速水由紀子さんのペンネームだという。ネットで知った。

 みんなに随分会ってないけど、元気でやってる?
 今度、小説を出すことになったんだ。驚いたでしょう。
 「売り」やってる子を大学で研究しているミヤダイって男に、マサキやカオリたちとの事を話したら、そのまま書いてみろって言われたんだ。
 (中略)
 ねえ、渋谷のRoomで知り合った、ミカっていう子を覚えてる?
 写真とデザインの勉強をしてるって言ってた、ちょっときれいな子。小説の装幀を、彼女に頼んだんだ。
(「マサキヘ──あとがきにかえて」より抜粋)

こんなことまで書かれているから、大部分の読者は著者が少女作家だと思ってしまうのも、しょうがないかも。というか私も、文庫の装丁写真の少女が桜井亜美本人かと思っていた。速水由紀子というジャーナリスト(と、そのブレーンとしての宮台真司)の作り出した虚像…という意味においては、まあ写真の少女が桜井亜美と言っても間違いではないのかもしれない。


しかし…なんか「宮台=速水=桜井」という構造が見えてから、一気にこの小説がトンデモ本に思えてきた。
そういわれてみれば、ねちっこいセックス描写とか、クラブでのパーティを「現代の祭祀場」みたいに表現するところとか、サイバーパンクの影響を受けている(?)ような渋谷の描写とか、「下弦の月」だの「琥珀色の記憶」だのといった懐古趣味的な言い回しとか、全てがいちいち臭く思えてくる。
「現代の性」を切り取りながら、読んでいてちっとも文章にみずみずしさが感じられなかったのは、そういうことだったのか。得心。

*1:ちなみに装丁と写真は蜷川実花さん。