『文学的人生論』

文学的人生論 (知恵の森文庫)
三島由紀夫が20代の頃の評論を集めた著作集。
おおまかに以下の4つのテーマに分けて構成になっている。

  • 芸術批評の問題点についての評論
  • 川端康成谷崎潤一郎からワイルド、ジュネまで個別の作家・作品論
  • 演劇・戯曲についての評論
  • LA、リオ、アテネなどの旅行記

読むにつれ「明晰」という言葉が浮かぶ評論たち。しかしこういう文章を読むにつけ、日本語の文法で論理的な文章を書く(読む)ことの困難さにぶつかる。
日本語文法のなかで試行錯誤する三島由紀夫…という図も、思い浮かぶ。


凄いなあと唸ったのは、リオのカーニバルについて書かれた紀行文の、次の一節。

 ブラジルは世界で最も奴隷解放の遅れた国で、親から享けた漆黒の肌をなげく解放奴隷の歌は、「白くなりたい……白くなりたい……」と歌うのである。黒人たちが仮装に身分不相応な金をかけるのも、半ばは仮装というものが、自分以外のものになりたいという欲望を充たしてくれるからに相違ない。
 事実、奇蹟はたびたび起って、その漆黒の父親が知らない場所で、彼の金髪白皙の息子が生まれて来る場合がある。しかしその白皙の息子が年長じて、白人の娘と結婚したのち、思いがけない漆黒の赤ん坊が生れたりする。
 毎年のカルナヴァルがつくる私生児は数知れない。皮肉なことに、かれらはクリスマスのころ、あの神聖な私生児の精霊と手をつないで、地上へ生れ落ちてくるのである。
(「謝肉祭」より)

この流れるような文章! しかし、「あの神聖な私生児」って…。