ナイト・オブ・ザ・京王閣

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半分取材、半分遊びで、京王閣競輪へ行ってきた。京王閣は9月まで「ミリオンナイトレース」と称してナイター競輪をやっている。
今日はいちおう決勝だったので、レース終了後に花火があげられるという話だったのだが、折からの雨で早々に「中止」のお知らせ。もっとも、あげられたところで喜ぶような客も、あまりいなかったように思う。
9月の湿気のように濃密なオヤジ空間。チョイ悪もへったくれもない、ここはダメオヤジ──愛情をこめてそう呼ぼう──たちのコロシアムなのだ。
スタート地点で飛ぶ怒号。
「おい7番! お前はバックをとればいいんだからな! バックをとるレースだけすればいいんだからな!」
罵声を意に介さず、7番の選手はサングラスの位置を直す。その隣で、このレースで本命に推されているハーフの選手が、胸に下げた十字架にキスをした。
カクテル光線にきらめいていた雨は、いつの間にかあがっていた。メイン前にはバンクも乾きはじめた。
「雨の日は体重の重いやつが勝つんだ」
競輪場の「にわか科学者」たちが呟いていた珍説も、いまはもう役に立たない。
あせるのはいつも賭ける側だ。なぜならメインがもう最終レースなのだから。このままでは帰られない。
そんなギャンブラーたちの思惑をあざ笑うかのように、メインを制したのは、出走メンバー中最高齢の選手だった。本命の若きヒーロー候補は、バックストレッチであっけなく後方に下がっていた。


競輪客の逃げ足は速い。
あっというまに人の気配がなくなった競輪場を後にしながら、レース前に流されたインタビュー映像で1着の中年選手がこう言っていたのを思い出した。
「ここにきて、競輪が楽しくて仕方がないんです」