「木綿のハンカチーフ」/太田裕美

なごり雪」、「車輪の唄」と、春に彼女と別れる歌のことを書いていたら、彼氏を見送る歌である「木綿のハンカチーフ」についても書いてくれと言われました。
意味不明ですが、某田舎のスナックで友人が「泣ける!」と言いながら熱唱していた姿を思い出します。彼はその後、なぜか裸にされてました。
作詞:松本隆、作曲:筒美京平。関係ないですけど、ちょうど私が生まれた年の発表です。

恋人よ僕は旅立つ 東へと向かう列車で
はなやいだ街で君への贈り物 探す探すつもりだ


いいえあなた 私は欲しいものは無いのよ
ただ都会の絵の具に染まらないで帰って 染まらないで帰って

男のほうがかなり浮き足立ってますね。今後の展開を想像させる出だしです。
「東へ向かう列車」とありますが、これは関西や中国・九州などから東京に向かっているというよりも、「東の京(みやこ)へ行く」ことを暗示しているのだと思いました。
女のほうはいきなり「いいえ」ですもんね。最初からすれ違う二人。

恋人よ半年が過ぎ 逢えないが泣かないでくれ
都会で流行りの指輪を送るよ 君に君に似合うはずだ


いいえ星のダイヤも 海に眠る真珠も
きっとあなたのキスほどきらめくはずないもの きらめくはずないもの

最初聴いたときは、「都会で流行りの指輪」を送ろうとする男もいじましいなあ、なんて感じたのですが。でも意地悪く考えると、この辺からもう東京の女の影が見え隠れ。だってそんなの、上京したばかりの男が知ってるでしょうか。きっと職場の同僚の女の子に教えてもらったんだぜ!
それに対して田舎の女。きっとダイヤも真珠も本物を見たことがないから、星にたとえたり、海に眠るなんて言い方をしているのでしょう。ナイーブです。自分の知っている一番輝くものが、「あなたのキス」だなんて!

恋人よ今も素顔で 口紅もつけないままか
見間違うようなスーツ着た僕の 写真写真見てくれ


いいえ草に寝転ぶあなたが好きだったの
でも木枯らしのビル街 体に気をつけてね 体に気をつけてね

ほらほら、化粧をしない恋人と比べているのは、間違いなく東京の女だね! ヒューヒューだよ!
もう完全に二人の心はすれ違ってます。

恋人よ君を忘れて 変わってく僕を許して
毎日愉快に過ごす街角 僕は僕は帰れない


あなた最後のわがまま 贈り物をねだるわ
ねえ涙拭く木綿のハンカチーフください ハンカチーフください

この男はたぶん、東京に就職したのでしょう。そんで「いつか君を迎えに帰るから」みたいなことを彼女に言ってたのでしょうね。
それが、なぜもう帰れなくなったのでしょうか。歌詞にはないけど、おそらく東京で新しい女ができたんでしょうね。それか、残してきた彼女が田舎くさく思えて、次第に愛情が冷めたのか。
男が「はなやいだ街」で探し出したものは、新しい女だったとしたら…。皮肉ですねー。


しかしこれ、どういうメディアでのやり取りなんでしょうね。指輪だの写真だのを送っているので、なんとなく手紙なのかなーって思うのですが。
でも別に電話でもかまわないし、なんなら現代に置き換えて、メールのやり取りでもいいわけです。手紙にしろ電子メールにしろ(電話なら留守電がベター)、「ハンカチーフください」っていう最後のメッセージが手元に残るのは、つらいな〜。