片岡義男のこと

文具好きの私にとって、片岡義男さんは以前から気になる存在ではあった。氏のガジェットへのこだわりようと、欧米の文具への造詣の深さは、たびたび著作に片鱗がのぞくところで、こういうと僭越ながら「趣味が合うな」と思っていた。

 

その辺が入口となって、氏の小説も何篇か読むに至ったのだが、これはこれで興味深いというか…。うっすらと感じてはいたが、巨大な金脈を掘り当てた印象だ。

何がよいといって、日常のなかの微細な描写の積み重ねによって、フィクションなのかドキュメンタリーなのか境界線があやしい作品世界がつづられ、で、結局「何もない」まま終わるところなのだ。

 

「何もない」のは、そこから新たな何かがはじまるからなのか、ドラマが無いのが現実世界だよということなのか。

ニヒリズムではなく、温かみのある虚無がそこにはあって(虚無があるというのも反語的だが)、そこがとても気に入っている。