『潮騒』の舞台の島

伊勢湾の入り口にある小さな島「神島」は、三島由紀夫の『潮騒』の舞台である「歌島」のモデルとなった島として有名。鳥羽の方からフェリーで渡れるのだが、三島ファンとしてはぜひ一度訪れたい土地である。


昨日の朝日新聞の夕刊で、その神島が『潮騒』発表から60周年を迎えて観光客呼び込みに力を入れている、という記事を読んだ。

来てよ時代を飛び越えて 「潮騒」60年、神島はいま
小説「潮騒」を作家の三島由紀夫(1925〜70)が著し、今月で60年。その舞台となり、5度にわたる映画化でロケ地にもなった伊勢湾口の離島、神島(三重県鳥羽市)には、三島や映画の「記憶」が色濃く残る。名場面のロケ地を訪れる観光客も絶えない。
■小説も映画も「島の誇り」
 三島は小説の取材で神島を53年の春と夏に訪れ、漁協の組合長宅に1カ月ほど滞在。この家に嫁いだばかりだった寺田こまつさん(81)は当時を知る数少ない一人だ。「作家の先生だなんて全然知らなかった」
 気さくな三島の姿を思い出す。「旅館より民家に」と泊まり込んだ。こまつさんが2階に食事を運ぶと「僕は客じゃないから」と1階に下り、一家と食卓を囲んだ。昼間は島内を歩き回り、タコつぼ漁にも同行。島の人たちが話す方言を丁寧にメモした。
 小説では主人公の漁師新治が沖縄で台風に遭い、港に飛び込んで船と浮標をロープでつなぐ場面がある。こまつさんの夫で、航海士だった和弥さん(故人)の実体験とされる。「主人が先生とお酒を飲んだ時にでも話したんでしょう」
 三島は前年にギリシャを旅し、エーゲ海の島を舞台にした古典散文を下敷きにした作品の執筆を思い立ち、似たイメージの島を探した。神島に滞在中、「第二のふるさと」と話し、神社への階段や灯台から見る海の景色を挙げ、「島はすばらしい眺めばかりだ」としきりにほめたという。
 「潮騒」はベストセラーになり、刊行と同じ54年から85年にかけ映画化は5回を数える。いずれも神島でロケがあり、エキストラで出演した島民も多い。
 吉永小百合さんが新治の恋人初江を演じた64年の第2作。寺田信吉さん(70)は荒れた海に飛び込む新治の代役を務めた。「2回ほど撮り直して雨の中でたき火にあたっていたら、吉永さんが傘を差してくれた」
 吉永さんは昨年、49年ぶりに神島を訪問。映画の名場面に使われた施設の耐震工事や文学碑などの完成を機に島民の間で高まった願いが伝わった。再会した寺田さんが代役の思い出を話すと「寒かったでしょう。貴重なお力をいただきました」と笑顔が返った。
 第1作に出た天野静子さん(79)は、ロケの合間に撮られた俳優たちの写真や自分たちエキストラの記念写真を大切に持つ。「島の誇りですよ。潮騒は」


『潮騒』は、漁村の若い男女が純真さを保ちながら愛を成就する話なのだが、嵐に見舞われた2人が焚き火の前で裸になり暖を取るクライマックスで書かれる「その火を飛び越してこい」という言葉は、例の「潮騒のメモリー」に引用されている。この主人公2人が裸で抱き合った場所も、神島に現存しているという。
上記の記事にもあるように、『潮騒』はこれまで実に5回も映画化されているそうだが(吉永小百合版と山口百恵版は見た)、最後の堀ちえみ鶴見辰吾版は85年公開。それからでも30年が経っているし、そもそも原作発表から今年で60周年、今時の若い人はこの小説の存在すら知らないのではないだろうか。


ちなみに『潮騒』は、私の心の三島由紀夫ランキングで、トップ5に入るくらい好きな作品。他は『永すぎた春』『三島由紀夫レター教室』『美しい星』、あとやっぱり断筆となった『豊穣の海』四部作かな。

潮騒 (新潮文庫)

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