『靖国への帰還』

靖国への帰還 (講談社文庫)
会社で隣に座っている方から、「この本、面白いですよ」と言われて貸してもらった本。タイトルを見てやや気後れはしたものの、「薦められたら拒まない」主義なのでとにかく通読してみた。
第二次大戦末期の若き飛行機乗りが、アクシデントで現代へタイムスリップして、靖国問題に巻き込まれる…という話。内田康夫の本って実は読んだのはこれが初めてだったけど、浅見光彦シリーズでもなく、信濃コロンボシリーズでもなく、何というかこれは、SF(?)小説の形をとった内田氏本人の靖国論のようだ。
英霊」自身が靖国を語る…という、半分以上掟破りの体裁をとっているので、その辺途中まで強引さを感じながらやや引き気味に読んでいたのだが、終盤で「遺族の中にも思い出したくない人間はいる」とか、「誰だって喜んで死んだ訳ではない」といった視点が提示されて、そこに内田氏の物書きとしての良心を感じた。
しかしそういう作者の思想はともかくとして、主人公の恋愛が稚拙としか言いようがないのは、小説としては明らかに致命的と感じた。物語の推進力になるはずの淡い恋心に説得力がなく、絵空事の登場人物たちのおままごととしか思えなかったため、最後の最後まで全く親身になれなかった。