「紳士の黙約」ドン・ウィンズロウ

先週末の豪雨で、伊豆山の地滑りには衝撃を受けた。 追いかけ報道を見ていると、上流部分でかつて宅地開発がとん挫した経緯があり、その後始末の盛り土処理が問題だったのではないか、とのこと。 ちょうどそんな折に読んでいたのが、本書「紳士の黙約」だっ…

『知多半島殺人事件』

そういえば愛知へ引っ越してきてから、例の「西村京太郎作品でその土地を勉強する」というのをやっていなかった。 図書館へ行って西村京太郎のコーナーをつぶさに見てみたのだが、これがほとんど愛知を舞台にした作品が見つからない。氏にとって名古屋は、単…

『熔ける 大王製紙前会長井川意高の懺悔録』

2011年に会社法違反(特別背任)の容疑で東京地検特捜部に逮捕された、元王子製紙会長の井川意高氏。子会社から実に106億円ともいわれる無担保の借り入れを行っていたとされ、そのほとんどをマカオのカジノで「溶かして」いたと報道されたのも記憶に新しい。…

『わが酒の賛歌』

昨年末に訃報が届いた、知の巨人コリン・ウィルソンの著作。『アウトサイダー』や『オカルト』など、B級ニュース的な方面に強い印象のある著者だが、酒に関する著作もあると聞いたことがあって、図書館で探してかりてきた(本書は現在は絶版)。 もともとビ…

『特急「有明」殺人事件』

今度行く熊本を舞台にした西村京太郎作品を読んでいるが、この人の小説は観光ガイドとしては全く用をなさないことが、今さらにして分かってきた。 本作の収穫といえば、十津川警部と亀井刑事が嬉野温泉で背中を流し合う場面だけだった。

『十津川警部捜査行―北陸事件簿』

西村京太郎があちこちに書き散らしたトラベルミステリーの短編を、舞台となっている地方ごとにまとめたアンソロジー「十津川警部捜査行」。本編はそのうち、北陸4県が舞台となった以下の5編が収録されている。 とき403号で殺された男 夜行列車「日本海」の謎…

『夜行快速(ムーンライト)えちご殺人事件』

中越地震(2004年)直後の長岡を舞台にした悲劇。仮設住宅、養鯉業、放棄された山村…ややとってつけた感のあるモチーフが並ぶが、作者なりに被災地を応援したいという気持ちはあったのだろう。 それにしても、新宿を23時過ぎに出て新潟に明け方に着く「夜行…

『ヨーロッパ退屈日記』

若き日の(まだ俳優だった頃の)伊丹十三氏によるヨーロッパ滞在時のエッセイ集。 多少鼻につくところもあるのだが、日本のべたべたした慣習を嫌う感じはよく分かる。

『越後湯沢殺人事件』

越後湯沢のリゾートマンションを舞台にした同性愛者(作中での表記は「ホモ」)の愛憎劇。関越道で東京から越後湯沢へ入っていくと、高速道路の左右に(おそらくバブル期に建設された)リゾートマンションが林立しているけれど、正直あのうちの何割が埋まっ…

『上越新幹線殺人事件』

以前から、旅行や出張や引越しへ行く先の情報を仕入れるために(あるいは余韻に浸るために)、その土地を舞台にした西村京太郎、内田康夫、山村美紗などのトラベルミステリーを読むというのはどうだろうか、と思っていた。 …というわけで、今月は何回か新潟…

『屍者の帝国』

2009年に夭折したSF作家の伊藤計劃の遺稿をもとに、親友でもあった芥川賞作家の円城塔が大幅に書き足すという形で2012年に出版されたSF小説。 「屍者」と呼ばれるゾンビを使役する空想上の近代イギリスを舞台に、シャーロック・ホームズに出会う以前の若き日…

『ニューヨーク・スケッチブック』

ニューヨークに住むごく普通の人々に取材した掌編集。 ニューヨークのいいところは、口で説明しようとしたって、できるもんじゃない。それを知りたければ、住んでみるしかないのだ。 大人になり、もはや人生に「期待すること」よりも「諦めること」のほうが…

『日本人の動物観:人と動物の関係史』

日本人の自然観を表すキーワードの一つに花鳥風月というのがあるけれど、「獣(動物)」全般ではなく「鳥」と限定しているところが象徴的ではある。 鳥は仏教思想では六道輪廻の外にあると考えられていたため、我々の転生の対象ではなく、四季の表れの一つと…

『地下街の人びと』

半自伝的小説『路上(On The Road)』で有名なジャック・ケルアックの、こちらも半自伝的小説。ビートニク小説というのだろうか、意識があちこちに飛んだり、みんなでひたすら酒やドラッグをやっているだけのお話なんだけど、そうした行間に漂う、もう決して…

『時代を生きる力』

ハイパーメディア・クリエイターこと高城剛氏の本。この人は毀誉褒貶の大きい人ではあるけれど、小中学生の頃から「STUDIO VOICE」誌あたりでコラムを読んでいたり、CX「バナナチップス・ラヴ」を見てたりしていた身としては、多少擁護してあげたくもなる人…

『クトゥルー〈1〉 (暗黒神話大系シリーズ)』

高校以来、久々に「クトゥルー神話」の短編集を読んでいて、いろいろ考えるところがあった。 ラヴクラフトが提唱した世界観を、他の作家たちが追随し拡張して…というのは当時は面白い試みだったのだと思うけど、現代ならきっと同人誌文化がその役割を担うん…

『狩猟サバイバル』

登山ライターの筆者が、山の中での食料調達手段として猟銃による狩猟を習得、いよいよサバイバル登山を敢行するまでを追った、セルフルポ。 第二次ベビーブーマー世代である筆者は、世の中の多くの人と同じように大人になるまで狩猟はおろか家畜の解体にも関…

『忍びと忍術』

ここ最近私の中で続いている忍者ブーム。学術的なものも読んでみようということで、図書館から本書を借りてきた。 いわゆる「忍者」は飛鳥時代にまで遡れるという説*1もあるそうだが、一般的には室町末期からの戦国時代に形成されていったものが、現在で「忍…

『カムイ外伝(1)』『カムイ外伝(2)』

図書館にあるのを片っ端から借りている。本編のほうが飛び飛びにしかないので、カムイ外伝のほうにも手をつける。これ、昔どこかで読んだことがあったな。第一部から第二部に入った途端、絵柄がガラリと変わったのはどうしたことか…?*1 第一部の中でも最も…

『カムイ伝』

ここ最近私の中で忍者ブームが起きている。その流れで白土三平「カムイ伝」を読み始めた。「外伝」はチラッと読んだことはあるけど、こちらは読むのは初めて。こちらのほうが内容的にも超ハードコアで、しかもものすごく分厚い「愛蔵版」を図書館から借りて…

「最強マフィアの仕事術」

もと本物のマフィアだった筆者の教える、ビジネスや人生でのサバイブに役立つ「有益な情報」…ということで、以下要約。 さっさと要点に入れ きちんとした計画を書面で立てる、そのためにハードワークは惜しまない、人に売り込む時は物事を単純化してさっさと…

『正岡子規』

ドナルド・キーン氏が日本に帰化してから最初の著作ということになるのだろうか。正岡子規の評伝である。往時の文語文に平易な日本語で注釈を入れたりされているので、どれだけ日本語が達者なのかと思ったら、もとは英語で書かれた文章を編集者が訳したもの…

『デジタル音楽の行方』

音楽ソフトがレコード盤からCD、そしてデジタル配信へと移行してきた現在、「音楽は製品かサービスか?」という根源的な問いが音楽業界に突きつけられている。 もともと、レコード業界と音楽業界は同じものではない。それがより如実に見えるようになった現在…

『美少年』

団鬼六先生追悼の意を込めて読んだ。この文庫本、ずっと家の本棚にあったのだが、表紙がエロチックで通勤途中の読書には向かず、なかなか読む機会がなかったのだが、このたび自炊してReaderに入ったためめでたく読了の運びに至った。 団先生の自伝的一人語り…

『山田クンとざぶとん』

今年はケネディ大統領暗殺から50年、ファミコン生誕30周年、そして笑点の山田君の座布団運び30周年に当たる年らしい。座布団と幸せを運び続けて30年の筆者が、間もなく50周年を迎える(!)長寿番組「笑点」出演者の逸話や番組の裏話を書いたエッセイ集。 い…

『日本人の肖像 二宮金次郎』

何故か今、二宮金次郎こと二宮尊徳(たかのり)が気になっている。最近の経済史やオジサン向け雑誌では、長引く不況下での経営のお手本として、大赤字の小田原藩経済を立て直した尊徳の仕事を称揚する特集記事を散見するようになってきたが、そういう方面は…

『中国行きのスロウ・ボート』

「あまりにも多くの水が橋の下を流れた、ってね、高校時代の英語の教科書にあったな。覚えてるかい?」 詩人は21で死ぬし、革命家とロックンローラーは24で死ぬ。それさえ過ぎちまえば、当分はなんとかうまくやっていけるだろう、というのが我々の大方の予測…

『パーマン』

今年最後に読んだのはこれ。 マンガは世につれ、世はマンガにつれ。ダムに沈む村もあれば、沈まずに残る村もあり。

『武蔵野』

いわゆる武蔵野と呼ばれていた地域に長らく住んでいながら、国木田独歩の『武蔵野』をこれまで一度も読んだことがなかった。いや、そんな人がほとんどだとは思うけど、年末の忙しいさなかではあるがふと思い立って、青空文庫に落ちていた電子書籍をReaderに…

『キルショット』

自炊本をreaderで。 珍しく工員が主人公ということで、建築現場や船舶運送業界のジャーゴンや豆知識が出てきて興味深かった。その一方で、「ダメな悪人」の描写には、いつものエルモア・レナード節が冴え渡っている。 自分の日常生活で、周りに狩猟を趣味に…